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2019年4月28日日曜日

LTspice XVII on macで使う8pinオペアンプのシンボル作成と使用

LTspiceXVIIに含まれているオペアンプのシンボルは正負入力と出力の三端子のものと,正負電源,正負入力,出力の五端子の物しかないので,8ピンに2回路入ったオペアンプのシンボルを作成してみました.

以下では,前の記事で作った1回路入りnjm4558を使って,2回路入りnjm4558のシンボルを作ります.

まず,1回路入りnjm4558を使って,以下のような回路図を作ります.これは一般的に日本で販売されている2回路入りオペアンプの回路図です.ファイル名「njm4558double.asc」として保存します.

図.2回路入りnjm4558の回路図

※上記回路のU2の方については,信号の±,電源の±ともに逆になってます.そのうち回路図を直しますので,作成の際には気をつけてください.
このとき,OUT1などの文字列は「Draft」→「Net Name」で作ります.Port Typeは(none)のままにしておきます.「OK」ボタンをクリックするとマウスカーソルが入力した文字列になるので,文字列の端に付いている小さい正方形を配線の端点に重なるように置きます.すると,文字列は自動的に配線と重ならないように配置されます.

図.端子の名前付け

次に,この回路のためのシンボルを作成します.メニューから「File」→「New」→「New Symbol」をマウスで選択すると,次のようなシンボル編集ウィンドウが開きます.

図.シンボル編集ウィンドウ

次のような図を描きます.

図.シンボル図

右クリック→「Draw」から「Rectangle(四角形)」「Circle(円)」「Arc(円弧)」を用います.描き方は以下の通りです.

Rectangle:
メニューからRectangleを選択した後,左上の座標から右下の座標にマウスをドラッグする.

Circle:
メニューからCircleを選択した後,円が内接する正方形の左上の座標から右下の座標にマウスをドラッグする.

Arc:
メニューからArcを選択した後,この円弧が一部となっている円が内接する正方形の左上の座標,右下の座標をクリックする.その後で円弧の開始点,終了点(たぶん反時計回り)をクリックする.この場合は下半円なので,左,右をクリックする.

初期状態では描かれる線がなぜか点線なので,これを実線に修正します.図形の上で右クリックすると,次の図のようなポップアップが表示されるので,「Dot」を「Solid」に変更して「OK」ボタンをクリックします.

図.線種の変更ポップアップ

全て実線に直します.最後にラベルを書いておきます.マウスを右クリックしてメニューから「Draw」→「Text」を選択し,njm4558と書いて右上に置きます.以上で描画は終了です.以下の図のようになります.

図.シンボルの描画が終了した状態

次に端子を追加します.左上から反時計回りに先ほど作成した回路図のNet Nameと同じ名前の端子を付けていきます.右クリックして「Add Pin」をクリックすると(ショートカットはpキー)次の図のようにポップアップダイアログが表示されるので,名前を入力します.左側の端子(上からOUT1,-IN1,+IN1,V-)は位置としてRIGHTを選択します.このRIGHTは文字列に対する端子の位置です.OKを押して,上から順にシンボルの図の上に置いていきます.

図.端子の追加(左側)

右側の端子(下から+IN2,-IN2,OUT2,V+)は文字列に対する端子の位置としてLEFTを指定します.

図.端子の追加(右側)

このとき重要なのが,ピンを追加する毎にNetlist Orderが1ずつ増えていくので,上記の順序(DIP ICのピン番号の順序)でピンを追加することです.

全てのピンを追加すると,シンボル図は以下の図のようになります.

図.2回路入りnjm4558のシンボル図

これで,シンボル図の編集画面からマウスで右クリック→「Hierarchy」→「Open This Symbol's Schematic」を選択すると回路図の編集画面が表示され,回路図の編集画面からマウスで右クリック→「Hierarchy」→「Open This Sheet's Symbol」を選択するとシンボル図の編集画面が表示されます.これができない時は,同じディレクトリ内に拡張子だけが異なる二つのファイルnjm4558double.ascとnjm4558double.asyが保存されているか確認してください.ただし,回路図の編集画面からシンボル図の編集画面を呼び出すときに「Unknown symbol syntax: "Version 0"」と表示されます.「OK」ボタンをクリックするとそのままシンボル図の編集画面が開きますが,シンボル図の編集画面内でこれを修正する方法が見つからなかったので,LTspice XVIIを一度終了し,ファイルnjm4558double.asyをテキストエディタで開いて修正します.1行目の「Version 0」を「Version 4」に書き換えてください.

次に,作成したシンボルを回路作成時に呼び出せるようにライブラリに追加します.LTspice XVII macのディレクトリ(/Users/ユーザー名/Library/Application Support/LTspice/)の中のシンボルを置くディレクトリ(/Users/ユーザー名/Library/Application Support/LTspice/lib/sym/)の中にNJRというディレクトリを作成し,これら2個のファイルを置きます.macのFinderではホームディレクトリの中のLibraryディレクトリは表示されないので,Finderでホームディレクトリにいる状態で Finderのメニュー「移動」→「フォルダへ移動...」を選択し,「Library」を入力して「移動」ボタンをクリックするとLibraryディレクトリの中へ移動できます.

一度LTspice XVIIを終了,再度起動すると,[NJR]の中にnjm4558doubleが追加されていて選択できるようになっています.

図.回路図エディタから作成した2回路入りnjm4558の呼び出し

以下の図のように,反転増幅回路を作成します.回路図中の「V+」と「V-」「IN」「OUT」は「Net Name」から作成します.また,「SPICE directive」から「.tran 5m」という命令を作成しないとシミュレーションが動きません.

図.2回路入りnjm4558オペアンプで作成した反転増幅回路の回路図 

画面左上のシミュレーション実行ボタンを押すと波形ウィンドウが表示されます.フォーカスを回路図ウィンドウに戻して,赤鉛筆型の電圧プローブでINとOUTをクリックすると,以下の図のようにちゃんと反転増幅の入出力波形が表示されました.

図.シミュレーション結果

これで,三角形のオペアンプのシンボルを使った回路図でなく,8pinオペアンプICの図を使った,実体配線図に近い回路図が描けるようになりました.

2019年4月8日月曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(5) - NFBとFFT,全高調波歪率

定電流回路なしの負帰還(NFB)

前の投稿は,定電流バイアスにコンデンサーを入れて,それを負帰還で綺麗な波形に補正していたので,部品点数が多くなってしまいました.そこで,元に戻り,最初の回路にNFBを掛けてみることにしました.

最初の回路が以下のとおりです. 


この回路の出力波形は以下のようになってサチっています.上下ともサチっているので,このくらいが限界かと思われます.


これにNFBをかけると,以下のような回路になります.

この回路の出力波形は以下のようになりました.

出力電圧が減る代わりに,歪みは小さくなっています.

FFTと全高調波歪率

これら二つの回路のFFTを計算し,全高調波歪率を求めてみます.
まず,最初の回路図に,以下のように「Draft」→「Net Name」からvinとvoutを付けます.「Port Type」はそれぞれ「Input」と「Output」に設定し,信号入力の場所と信号出力の場所にひっつけます.

次に,SPICE Directiveを右クリックして以下のように書き換えます.改行はctrl-returnで入力します.

;.step param VSIN list 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
.option pointwinsize=0
.param VSIN 0.6
.tran 0 5m 0 100n
.plot V(vin) V(vout)
.Four 1k V(vout)

1行目は先頭にセミコロン「;」を書いてコメントアウトしています. 2行目は,計算精度を落とさないためのオプションです.これを書かないと歪率が大きくなります. 3行目は,入力の正弦波の最大値を0.6Vのみに設定しています. 4行目は,5msecまでの過渡解析を調べる際の精度をあげています.ここでは100nsec単位にしています. 5行目は,vinとvoutの電圧をプロットするコマンドです. 6行目は,vinとvoutのフーリエ解析を行ない,全高調波歪率をファイルに出力するコマンドです.
この状態で左上の「Run」ボタンをクリックすると,波形ウィンドウが表示され,入力信号と出力信号が表示されます.

このウィンドウの上でマウスで右クリックし,「View」→「FFT」を選択します.以下のようなポップアップウィンドウが表示され,V(vin)とV(vout)が選択されてますので,これからV(vin)の選択を解除し,V(vout)の選択のみを残します.

最後にOKボタンを押すと,次の出力信号のFFTが表示されます.グラフの上に表示されているV(vout)を右クリックすると,グラフの色を変更することができます.以下の図では黄緑色から青色に変更しました.

さらに,ファイルの保存されているディレクトリ(macの場合はホームディレクトリの中のDocuments/LTspice)に,Output10c.logというファイルができています.中身は以下のとおりです.

Circuit: * /Users/arimura/Dropbox/LTspice/Documents/Draft10c.asc

Direct Newton iteration for .op point succeeded.
N-Period=1
Fourier components of V(vin)
DC component:-1.48111e-11

Harmonic Frequency  Fourier  Normalized  Phase   Normalized
 Number    [Hz]    Component  Component [degree] Phase [deg]
    1     1.000e+3  6.000e-1  1.000e+0    -0.00ー     0.00ー
    2     2.000e+3  4.779e-12  7.964e-12  -103.63ー  -103.63ー
    3     3.000e+3  1.144e-9  1.907e-9     4.81ー     4.81ー
    4     4.000e+3  2.785e-11  4.641e-11   169.00ー   169.00ー
    5     5.000e+3  7.010e-10  1.168e-9     4.09ー     4.09ー
    6     6.000e+3  6.004e-12  1.001e-11   151.73ー   151.73ー
    7     7.000e+3  2.033e-9  3.388e-9  -164.34ー  -164.34ー
    8     8.000e+3  2.707e-11  4.512e-11    69.19ー    69.19ー
    9     9.000e+3  9.513e-10  1.586e-9    15.88ー    15.88ー
Total Harmonic Distortion: 0.000000%(0.000091%)

N-Period=1
Fourier components of V(vout)
DC component:-0.0897433

Harmonic Frequency  Fourier  Normalized  Phase   Normalized
 Number    [Hz]    Component  Component [degree] Phase [deg]
    1     1.000e+3  4.248e+0  1.000e+0  -178.80ー     0.00ー
    2     2.000e+3  3.719e-1  8.753e-2    93.48ー   272.28ー
    3     3.000e+3  1.280e-2  3.013e-3   167.67ー   346.47ー
    4     4.000e+3  1.863e-2  4.386e-3    93.57ー   272.37ー
    5     5.000e+3  1.021e-2  2.404e-3    -1.02ー   177.78ー
    6     6.000e+3  2.025e-3  4.766e-4  -175.46ー     3.34ー
    7     7.000e+3  2.212e-3  5.207e-4    30.06ー   208.85ー
    8     8.000e+3  9.470e-4  2.229e-4  -100.44ー    78.36ー
    9     9.000e+3  7.237e-4  1.704e-4    -7.85ー   170.95ー
Total Harmonic Distortion: 8.772933%(8.773301%)



Date: Sun Apr  7 23:09:16 2019
Total elapsed time: 2.348 seconds.

tnom = 27
temp = 27
method = modified trap
totiter = 100628
traniter = 100620
tranpoints = 50019
accept = 50019
rejected = 0
matrix size = 20
fillins = 3
solver = Normal
Matrix Compiler1: 1298 object code size  0.4/0.2/[0.2]
Matrix Compiler2: off

上の数値が入力波形のもの,下の数値が出力波形のものです.全高調波歪率は以下の2行に書かれています.
Total Harmonic Distortion: 0.000000%(0.000087%)
Total Harmonic Distortion: 8.772933%(8.773301%) 
最初の回路の全高調波歪率は8.77%になりました.
NFBつきの回路図に対しても同様の解析を行ってみます.回路のSPICE Directiveを同じように書き換えます.

左上のRunボタンをマウスクリックすると,以下の波形ウィンドウが表示されます.

このウィンドウの上でマウスで右クリックし,「View」→「FFT」を選択すると,以下のFFTウィンドウが表示されます.3kHz以上の高調波成分が,NFBをかける前と比較するとだいぶ小さくなっていることがわかります.

同じディレクトリにファイルDraft10d.logができています.中身は以下のとおりです.

Circuit: * /Users/arimura/Dropbox/LTspice/Documents/Draft10d.asc

Direct Newton iteration for .op point succeeded.
N-Period=1
Fourier components of V(vin)
DC component:1.98825e-11

Harmonic Frequency  Fourier  Normalized  Phase   Normalized
 Number    [Hz]    Component  Component [degree] Phase [deg]
    1     1.000e+3  6.000e-1  1.000e+0     0.00ー     0.00ー
    2     2.000e+3  4.309e-11  7.182e-11  -171.03ー  -171.03ー
    3     3.000e+3  1.366e-9  2.277e-9    -0.28ー    -0.28ー
    4     4.000e+3  2.356e-11  3.927e-11   -47.20ー   -47.20ー
    5     5.000e+3  9.200e-10  1.533e-9     7.82ー     7.82ー
    6     6.000e+3  1.708e-11  2.846e-11    41.70ー    41.70ー
    7     7.000e+3  1.921e-9  3.202e-9  -178.42ー  -178.42ー
    8     8.000e+3  1.327e-11  2.211e-11  -119.37ー  -119.37ー
    9     9.000e+3  2.865e-10  4.776e-10   -24.22ー   -24.22ー
Total Harmonic Distortion: 0.000000%(0.000087%)

N-Period=1
Fourier components of V(vout)
DC component:-0.0119763

Harmonic Frequency  Fourier  Normalized  Phase   Normalized
 Number    [Hz]    Component  Component [degree] Phase [deg]
    1     1.000e+3  2.813e+0  1.000e+0   176.31ー     0.00ー
    2     2.000e+3  1.402e-1  4.984e-2    70.99ー  -105.33ー
    3     3.000e+3  3.065e-3  1.090e-3  -134.35ー  -310.66ー
    4     4.000e+3  2.903e-3  1.032e-3    34.69ー  -141.62ー
    5     5.000e+3  2.574e-3  9.152e-4   -48.85ー  -225.17ー
    6     6.000e+3  4.181e-4  1.486e-4  -148.73ー  -325.04ー
    7     7.000e+3  3.621e-4  1.287e-4   -17.60ー  -193.91ー
    8     8.000e+3  1.082e-4  3.847e-5  -140.55ー  -316.86ー
    9     9.000e+3  2.952e-4  1.049e-4    46.24ー  -130.07ー
Total Harmonic Distortion: 4.987153%(4.987208%)



Date: Mon Apr  8 05:36:44 2019
Total elapsed time: 2.553 seconds.

tnom = 27
temp = 27
method = modified trap
totiter = 100043
traniter = 100035
tranpoints = 50018
accept = 50018
rejected = 0
matrix size = 21
fillins = 4
solver = Normal
Matrix Compiler1: 1446 object code size  0.3/0.2/[0.1]
Matrix Compiler2: off

上の数値が入力波形のもの,下の数値が出力波形のものです.全高調波歪率は以下の2行に書かれています.
Total Harmonic Distortion: 0.000000%(0.000087%)
Total Harmonic Distortion: 4.987153%(4.987208%)
NFBを掛けた回路の全高調波歪率は4.99%になりました.NFBをかける前の8.77%と比較すると歪みが減っていることが分かります.



2019年4月4日木曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(4) - NFB(負帰還)



負帰還を掛けてみる

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(3)」の増幅率を上げるために,カソードにコンデンサーを入れてみました.

前の回路が以下のとおりです.

この回路の入出力波形が以下のとおりです.黄緑色が入力,赤色が真空管のプレート電圧,青色がこれをコンデンサーでフィルタリングしてDC成分を取り除いた出力波形です.

上の回路に,カソードから10uFのコンデンサーをグラウンドに落とした回路が以下のとおりです.

このときの入出力波形が以下のとおりです.上のグラフと同じく,黄緑が入力波形,赤色がプレートの波形,青色がプレートの波形のDC成分をフィルタリングした出力波形です.波形の絶対値が大きくなり,サチっています.電源電圧は12Vなので,プレートの電圧を0Vから12Vまでの間に波形を収めないとサチってしまいます.

ここで,出力からNFB(負帰還,ネガティブフィードバック)をかけてみます.以下の回路は,いくつか試して出した結果です.出力端子からの信号と入力端子からの信号を,10kΩと1kΩを通して混ぜたものを真空管のグリッドに入力しています.これは,出力電圧と入力電圧を1:10で比例配分した波形を真空管のグリッドに入力していることに相当します.

結果の波形は以下のようになりました.黄緑色が入力波形,青色が出力波形,赤色が入力波形と出力波形を10:1で混ぜたものです.薄緑色がプレート電圧です.プレート電圧が2Vから10V程度に収まっていて,ちゃんとサチらずにそこそこの波形が出力されていることが分かります.

負帰還(negative feedback, NFB, ネガティブフィードバック)は,出力を入力に反転して戻して,出力が大きくなったら入力信号を小さく,出力が小さくなったら入力信号を大きくするものです.出力を入力に帰還(feedback)して,自動的に入出力の増幅度を同じ値に近づけるものです.真空管はEp-Ip特性の,入力バイアスをシフトしたときの出力電流の間隔が一定ではないので,低電流回路にしても,どうしても歪みが出てしまいます.こういうときに,負帰還を使って,自動的に増幅度を安定化させる働きがあります.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(5)」へ続く.

2019年4月3日水曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(3) - 定電流バイアスを試してみる



電源電圧12Vの真空管アンプで定電流バイアスのシミュレーション

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(2)」では,2次高調波歪みが多かったのですが,Ep-Ip特性を定電流で眺めてみます.以下の図は,前と同じデータを,最大値1mAで切ってみたものです.

負荷直線として1mAの横線を引くことができれば,バイアス0Vから-1Vまで意外と等間隔になっていることが分かります.もっと先まで等間隔になっていそうです.そこで,次のように定電流回路を組み込んだ回路を作ってみます.

まず,定電流回路を作成します.「トランジスタ(2SC1815)を2つ使った定電流回路のシミュレーションと電子工作・その結果」を参考に,1mAの定電流回路を作成します.以下のような回路を作成しました.

ダイオードに流れる電流をプロットすると,次のグラフのようになりました.
これで,2V以上電圧に余裕があれば,だいたい1mAの定電流を流すことができます.
抵抗XRの値は10kΩとします.ここで,上のEp-Ip特性図はEgを0Vから-1Vまでしか振っていないので,1Vより小さい電圧で定電流特性が必要な今回のアンプでは採用できません.

「定電流回路 いろいろ」をみながら,もう少し必要とする電圧の少ない定電流回路を作ってみました.以下のような回路です.この場合,電源電圧の12Vを使っています.

このとき,V1の電圧が変わった時にトランジスタのコレクタ-エミッタ間に流れる電流は以下のようになります.

これを真空管のカソードに組み込んでみます.バイアス電圧を上げるために,定電流回路の上にカソード抵抗2kΩを挟みました.

このときの入力波形が黄緑色,出力波形が青色です.前と同じように,入力波形は0.4Vpp, 0.8Vpp, 1.2Vpp, 1.6Vpp, 2.0Vppです.

カソードを定電流化することで,前よりも出力波形は綺麗になりました.ただ,前の回路よりも出力が小さくなっているので,負荷抵抗を10kΩから20kΩまで増やしてみます.その結果,以下のようになりました.2Vppの入力に対して8Vpp程度の出力です.カソードに抵抗を用いてバイアスを作った前回の回路よりはうまく動作していることが分かります.

電源12Vでは,このくらいでも上出来かと思います.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(4)」へ続く.

2019年4月2日火曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(2) - B電圧12VでEL34Tを動かしてみる

低電圧(12V)でEL34Tを動かしてみる

「LTspice on macで真空管のシミュレーション」では,B電圧200VでEL34Tを動かしてみました.ここでは,B電圧を12Vという低い電圧で,どのような動作になるかシミュレーションしてみます.

Ep-Ip特性のプロット

まず,12V電圧でのEp-Ip特性をプロットしてみます.真空管のプレートの接続点にマウスカーソルを合わせると電流を測るマークが出て,マウスでクリックすればこの抵抗を流れる電流をプロットできます.
グリッド電圧は{VG}と書いて変数にし,

.step param VG list 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1

で0Vから-1Vまで0.1V単位で変化させます.電源電圧は0Vから12Vまで0.1V単位で変化させます.

以下のような指定でも大丈夫です.VGを0から-1まで-0.1ずつずらす,と指定しています.


こうやってプロットしたEp-Ip特性が以下の図です.横軸がプレート電圧,縦軸がプレート電流です.一番上の曲線が,バイアス0Vのときで,バイアスがマイナス方向に大きくなるにつれて,順に下の曲線になります.一番下の曲線がバイアス-1Vのものです.

回路の設計,シミュレーション結果

電源電圧12Vでなるべく多く,この曲線を横切るようにするために,負荷抵抗を1kΩとし,横軸の12Vと縦軸の1.2mAを結んだ直線をロードラインとし,バイアスはその真ん中,0.5Vと設計します.プレート電流と同じくカソード電流が1.2mA流れているとき,バイアスを0.5V上げるには,カソード抵抗として400Ωを置けば良いことになります.
が,ここはシミュレーターなので,色々値を入れて,実際にバイアスが0.5V程度になる1kΩをカソード抵抗にしてみました.その結果,出来上がった回路が以下のものです.

上のEp-Ip曲線より,1Vpp程度までしか信号は入力できないことが明らかですが,わざと入力として0.4Vpp,0.8Vpp,1.2Vpp,1.6Vpp,2.0Vppの信号を入れて,出力信号を見てみます.以下のような結果になりました.

赤色の直線が,カソード抵抗と真空管の間の点の電位なので,バイアス電圧です.黄緑色の正弦波が入力信号で,青色の波形が出力です.振幅が最小の波形(入力が0.4Vpp)でも,ある程度出力波形が歪んでいることが分かります.

出力波形で最も振幅の大きいものは,上下がサチっています.また,全体的に上の波形が膨らんで,下の波形が細くしぼんでいます.これは,上のEp-Ip曲線において,下に行くに従って曲線の間隔が狭くなっているので,こうなっています.

以上のシミュレーションより,だいぶ波形が歪んでいるものの,電源電圧12Vである程度増幅できていることが分かります.

次の投稿では,定電流バイアスを使って,この特性をもう少し改善してみます.

2次高調波歪み

この出力波形の歪みの形は,以下のように作ることができます.gnuplotで$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$をプロットすると,以下のように,上が太くて最大値の絶対値が小さく,下が細くて最小値の絶対値が大きいグラフを描くことができます.太い線が$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$,細い線が$\sin(x)$と$0.2\cos(2x)$です.

これより,正弦波に対して,その周波数(基本周波数)の偶数倍(この図の場合は2倍)の周波数を持つ,振幅の小さい周波数成分(2次高調波)を加えると,シミュレーションに近い波形を作ることが可能です.このように,基本周波数の偶数倍の成分の信号が含まれる歪みを,偶数次高調波歪みと呼びます.一方,基本周波数の奇数倍の成分が含まれる歪みを奇数次高調波歪みと呼びます.

真空管アンプは2次高調波歪みが多く,一方半導体アンプは3次高調波歪みが多い,そして偶数次高調波歪みが奇数次高調波歪みに比べて聴感上よく聞こえると言われています.さらに,特に弦楽器は2次高調波歪みが多いので,真空管アンプの歪みによって,響きが強調されて心地よく聴こえると言われることもあります.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(3)」へ続く.

2019年4月1日月曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション


LTspice XVIIで真空管を使った増幅回路のシミュレーション

世の中は便利なもので,LTspice XVII (2017)という回路シミュレータが公開されていて,無料で全ての機能が使用できます.回路に使える部品数は無限だそうです.

ただ,LTspiceに真空管のシンボルは三極管,四極管,五極管と含まれているのですが,各型番の真空管のデータがないため.そのままでは真空管を含む回路の挙動をシミュレーションできません.

ただ,世の中にはすごい人がいるもので,中村歩(Ayumi)氏がSpice用の真空管のデータを公開しています(Ver. 3.20 2016年3月7日で240種類).

http://ayumi.cava.jp/audio/index.html

また,トランジスタ技術2017年5月号には,付録DVD-ROMにシンボルを選択するだけでLTspiceで利用できるようにした真空管モデルが278種類収録されています.

今回は,「LTspice入門 真空管モデルをライブラリに組込む」を元に,EL34Tをぶひんとして登録し,自己バイアス増幅回路を作成してみました.

LTspice XVII Mac版のインストール

LTspice XVIIはWindows版とMac版が以下のWebからダウンロードできます(Last Update: 2019/3/13).

https://www.analog.com/en/design-center/design-tools-and-calculators/ltspice-simulator.html

macOSの場合,LTspice.dmgがダウンロードされるので,これをダブルクリックし,マウントされたイメージ内でLTspice.appをApplicationsにdrag&dropすればインストールは完了します.

真空管データの登録

「LTspice入門 真空管モデルをライブラリに組込む」にしたがって,EL34Tを登録してみます.「Ayumi's Lab.: オーディオ」の「SPICE用真空管モデル(240種) Ver. 3.20 (2016/3/7)」からLinux用のデータをダウンロードしました.

zipファイルを解凍して,出てきた*.incファイルを,ホームディレクトリの下のLibrary/Application Support/LTspice/lib/sub/というディレクトリの中にAyumiというディレクトリを入れて,この中にコピーします(MacのFinderではホームディレクトリの中のLibraryは見えないので,ホームディレクトリが表示されている時に,メニューの「移動」→「フォルダへ移動」を選択して「Library」と入力し「移動」ボタンをクリックするとLibraryディレクトリの中へ移動できます.後は中身のディレクトリに順次,移動できます).

実は,これらのファイルはLTspiceでは使用できないファイルなので,ファイル内の全ての^を**に置換します(指数関数の演算子です).テキストエディタの一発置換機能を使ってください.これで,各真空管のデータが準備できました.

次に,真空管EL34Tのシンボルファイルを作成します.EL34Tは五極管であるEL34を三極管接続したモデルです.ディレクトリLibrary/Application Support/LTspice/lib/sym/の中にAyumiというディレクトリを作成し,ファイルLibrary/Application Support/LTspice/lib/sym/Misc/tetrode.asyを,Library/Application Support/LTspice/lib/sym/Ayumi/EL34T.asyという名前でコピーします.

このディレクトリへのアクセスは面倒なので,ターミナル上で
cd
ln -s 'Library/Application Support/LTspice' .
を実行し,ホームディレクトリにLTspiceというディレクトリが見えるようにしておくと,この後の処理が便利です.

ファイルの中身はhttp://mobius-el.cocolog-nifty.com/blog/2018/01/ltspice-03c0.htmlのようにGUI上で書き換え可能ですが,書き換える場所は少しなので,ここではテキストエディタで変更します.

SYMATTR Value Triode
SYMATTR Prefix X
SYMATTR Description This symbol is for use with a subcircuit macromodel that you supply.

上記の部分の下記のように書き換えます.

SYMATTR Value EL34T
SYMATTR Prefix X
SYMATTR Description High Performance Audio Power Pentode
SYMATTR ModelFile \\Users\arimura\LTspice\lib\sub\Ayumi\EL34T.inc

この例のように,ファイルの存在する場所をModelFileに書きます.\\Users\の次の部分はユーザー名なので,それぞれ確認してください.

2019/4/28訂正:lib/subからの相対パスで良いようです.

SYMATTR Value EL34T
SYMATTR Prefix X
SYMATTR Description High Performance Audio Power Pentode
SYMATTR ModelFile Ayumi\EL34T.inc

なお,これらのファイルを書き換えた後は,LTspiceを再起動する必要があるようです.

回路図の作成

LTspiceをダブルクリックすると,以下のようなダイアログが開きます.

「Start a new, blank Schematic」をクリックすると,とんでもなくシンプルなウィンドウが開きます.

右ボタンでメニューが出てきて,全てここから操作可能です.

「画面上で右クリック」→「Draft」→「Component」(ショートカットキー:F2)で部品が選べます.

[Misc]の中に入っているtriode,tetrode,pentodeがそれぞれ三極管,四極管,五極管です.先ほど作成したEL34Tも[Ayumi]の中にあると思います.部品をクリックで選択してOKボタンをクリックすると,マウスカーソルに部品がくっついた形になるので,クリックするたびに画面に部品が配置できます.ESCキーを押すと,このモードを終了します.


現在のモードを終了するには,常にESCキーを押すことを覚えてください.例えば,部品を削除する場合は,「画面上でマウスを右クリック」→「Edit」→「Delete」(ショートカットキー:F5)の操作でマウスカーソルがハサミになって削除モードになります.必要な部品を左クリックすると,その部品が削除されます.ESCキーを押すと削除モードを終了します.

resで抵抗が,capでコンデンサーが,voltageで電源が選択できます.信号源は[Misc]の中にsignalがありますので,これを使うと,あらかじめ1kHz,1Vppの正弦波が出力されるような設定になっています.なお,回路図の中での0Vの位置を決めるためにGNDをどこかに設定する必要がありますが,これは「画面上でマウスを右クリック」→「Draft」→「Net Name」(ショートカットキー:F4)の操作で以下のようなダイアログが表示されますので,以下のようにGNDを選択して,画面上にGNDの三角マークを置いてください.

配線は「画面上でマウスを右クリック」→「Draft」→「Wires」(ショートカット:F3)を使います.クリックしたとき部品の端子をクリックせず,空白をクリックすると,折れ線を描くことができます.また,shiftキーを押しながらマウスカーソルを動かすと45度斜めの線を配線として描くことができます.

部品は全て縦向きに描かれていますので,これを90度単位で回転させるには,「画面上でマウスを右クリック」→「Edit」→「Move」(ショートカット:F7)で移動モードにした後,ctrl-R(controlキーを押しながらr)を入力してください.ちなみに,左右反転はctrl-Eです.

以下のように回路図を作成してください.

このとき,「画面上でマウスを右クリック」→「View」→「Grid Dots」を選択して画面に方眼ドットを表示しておくと,縦横の位置が合わせやすいと思います.

さて,回路の形はできましたが,抵抗や電源電圧,コンデンサーの容量などの値が入っていません.これは,部品を右クリックすることで値を入力できます.以下のように値を設定してください.

コンデンサーでよく使われるμ(マイクロ,ギリシャ文字の小文字のミュー)は,uで入力できます.電源,抵抗,コンデンサーについて,それぞれ以下のように値を設定してください.
図.電源の値の設定(DC200V)

図.抵抗の値の設定(470kΩの場合)

図.コンデンサーの容量の設定(0.1μFの場合)

以上で回路の作成は終了です.


シミュレーション

ウィンドウの右上にある,人が走っているボタンがシミュレーションボタンです.マウスで左クリックしてみてください.以下のようにエラーメッセージが表示されてしまいます.
図.シミュレーションを実行してみるができない

そこでまず,シミュレーションのためのコマンドを書き込みます.左下に表示されている「.tran 10m」という文字列です.

この「.tran 10m」という文字列は,10msecだけ時間変化を見るためのコマンドです.「画面上でマウスを右クリック」→「Draft」→「SPICE Directive」(ショートカット:S)で以下のように書き,画面の空白部分に配置します.

この状態で再度,シミュレーションボタンをクリックしてください.次のようなウィンドウが新たに表示されます.グラフは何も描かれていません.

ここでは入力信号と出力信号の電圧,カソードで作られる自己バイアスの電圧を表示したいと思います.回路図のウィンドウにフォーカスを合わせてマウスカーソルを動かすと,カーソルが鉛筆の形になったり変な(バトミントンの羽のようなクランプメーターらしい?)形になったりします.まず,入力信号を表示します.

次に出力信号の波形を表示します.入力の2Vppが12Vppに増幅されていることがわかります.

さらにカソードバイアス電圧を表示してみます.入力信号に合わせてカソードバイアス電圧が上下していることが分かります.

次に,よくあるように,カソードバイアス抵抗に,並列に10μFのコンデンサーを追加して,交流信号はこちらをバイパスさせてみましょう.極性付きコンデンサーはpolcapです.回路図は以下の通りになります.

このときの入出力,カソードバイアスの電圧は以下のようになります.同じ入力信号に対して出力が16Vppに増加していることが分かります.また,コンデンサーによってカソードバイアス電圧も安定していることが分かります.

グラフウィンドウの背景色

デフォルトではグラフの背景色が黒なので,これを白にしておきます.グラフウィンドウの一番右のボタン(とんかちマーク)をクリックするとダイアログが開きます.

一番上の「Configure Colors」をクリックして,「Selected Item:」で「Background」を選択し,Red:,Green:,Blue:の値を全て0から255に変更してください.

「OK」ボタンをクリックすると,グラフウィンドウの背景が白に変わります.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(2)」へ続く.

参考文献:
  • トランジスタ技術, 2017年5月号, CQ出版.
  • LTspice XVII公式和訳マニュアル, トランジスタ技術2017年9月号特別付録, 2017年9月号, CQ出版.
参考Web: