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2019年4月4日木曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(4) - NFB(負帰還)



負帰還を掛けてみる

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(3)」の増幅率を上げるために,カソードにコンデンサーを入れてみました.

前の回路が以下のとおりです.

この回路の入出力波形が以下のとおりです.黄緑色が入力,赤色が真空管のプレート電圧,青色がこれをコンデンサーでフィルタリングしてDC成分を取り除いた出力波形です.

上の回路に,カソードから10uFのコンデンサーをグラウンドに落とした回路が以下のとおりです.

このときの入出力波形が以下のとおりです.上のグラフと同じく,黄緑が入力波形,赤色がプレートの波形,青色がプレートの波形のDC成分をフィルタリングした出力波形です.波形の絶対値が大きくなり,サチっています.電源電圧は12Vなので,プレートの電圧を0Vから12Vまでの間に波形を収めないとサチってしまいます.

ここで,出力からNFB(負帰還,ネガティブフィードバック)をかけてみます.以下の回路は,いくつか試して出した結果です.出力端子からの信号と入力端子からの信号を,10kΩと1kΩを通して混ぜたものを真空管のグリッドに入力しています.これは,出力電圧と入力電圧を1:10で比例配分した波形を真空管のグリッドに入力していることに相当します.

結果の波形は以下のようになりました.黄緑色が入力波形,青色が出力波形,赤色が入力波形と出力波形を10:1で混ぜたものです.薄緑色がプレート電圧です.プレート電圧が2Vから10V程度に収まっていて,ちゃんとサチらずにそこそこの波形が出力されていることが分かります.

負帰還(negative feedback, NFB, ネガティブフィードバック)は,出力を入力に反転して戻して,出力が大きくなったら入力信号を小さく,出力が小さくなったら入力信号を大きくするものです.出力を入力に帰還(feedback)して,自動的に入出力の増幅度を同じ値に近づけるものです.真空管はEp-Ip特性の,入力バイアスをシフトしたときの出力電流の間隔が一定ではないので,低電流回路にしても,どうしても歪みが出てしまいます.こういうときに,負帰還を使って,自動的に増幅度を安定化させる働きがあります.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(5)」へ続く.

2019年4月3日水曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(3) - 定電流バイアスを試してみる



電源電圧12Vの真空管アンプで定電流バイアスのシミュレーション

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(2)」では,2次高調波歪みが多かったのですが,Ep-Ip特性を定電流で眺めてみます.以下の図は,前と同じデータを,最大値1mAで切ってみたものです.

負荷直線として1mAの横線を引くことができれば,バイアス0Vから-1Vまで意外と等間隔になっていることが分かります.もっと先まで等間隔になっていそうです.そこで,次のように定電流回路を組み込んだ回路を作ってみます.

まず,定電流回路を作成します.「トランジスタ(2SC1815)を2つ使った定電流回路のシミュレーションと電子工作・その結果」を参考に,1mAの定電流回路を作成します.以下のような回路を作成しました.

ダイオードに流れる電流をプロットすると,次のグラフのようになりました.
これで,2V以上電圧に余裕があれば,だいたい1mAの定電流を流すことができます.
抵抗XRの値は10kΩとします.ここで,上のEp-Ip特性図はEgを0Vから-1Vまでしか振っていないので,1Vより小さい電圧で定電流特性が必要な今回のアンプでは採用できません.

「定電流回路 いろいろ」をみながら,もう少し必要とする電圧の少ない定電流回路を作ってみました.以下のような回路です.この場合,電源電圧の12Vを使っています.

このとき,V1の電圧が変わった時にトランジスタのコレクタ-エミッタ間に流れる電流は以下のようになります.

これを真空管のカソードに組み込んでみます.バイアス電圧を上げるために,定電流回路の上にカソード抵抗2kΩを挟みました.

このときの入力波形が黄緑色,出力波形が青色です.前と同じように,入力波形は0.4Vpp, 0.8Vpp, 1.2Vpp, 1.6Vpp, 2.0Vppです.

カソードを定電流化することで,前よりも出力波形は綺麗になりました.ただ,前の回路よりも出力が小さくなっているので,負荷抵抗を10kΩから20kΩまで増やしてみます.その結果,以下のようになりました.2Vppの入力に対して8Vpp程度の出力です.カソードに抵抗を用いてバイアスを作った前回の回路よりはうまく動作していることが分かります.

電源12Vでは,このくらいでも上出来かと思います.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(4)」へ続く.

2019年4月2日火曜日

LTspice XVII on macで真空管のシミュレーション(2) - B電圧12VでEL34Tを動かしてみる

低電圧(12V)でEL34Tを動かしてみる

「LTspice on macで真空管のシミュレーション」では,B電圧200VでEL34Tを動かしてみました.ここでは,B電圧を12Vという低い電圧で,どのような動作になるかシミュレーションしてみます.

Ep-Ip特性のプロット

まず,12V電圧でのEp-Ip特性をプロットしてみます.真空管のプレートの接続点にマウスカーソルを合わせると電流を測るマークが出て,マウスでクリックすればこの抵抗を流れる電流をプロットできます.
グリッド電圧は{VG}と書いて変数にし,

.step param VG list 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1

で0Vから-1Vまで0.1V単位で変化させます.電源電圧は0Vから12Vまで0.1V単位で変化させます.

以下のような指定でも大丈夫です.VGを0から-1まで-0.1ずつずらす,と指定しています.


こうやってプロットしたEp-Ip特性が以下の図です.横軸がプレート電圧,縦軸がプレート電流です.一番上の曲線が,バイアス0Vのときで,バイアスがマイナス方向に大きくなるにつれて,順に下の曲線になります.一番下の曲線がバイアス-1Vのものです.

回路の設計,シミュレーション結果

電源電圧12Vでなるべく多く,この曲線を横切るようにするために,負荷抵抗を1kΩとし,横軸の12Vと縦軸の1.2mAを結んだ直線をロードラインとし,バイアスはその真ん中,0.5Vと設計します.プレート電流と同じくカソード電流が1.2mA流れているとき,バイアスを0.5V上げるには,カソード抵抗として400Ωを置けば良いことになります.
が,ここはシミュレーターなので,色々値を入れて,実際にバイアスが0.5V程度になる1kΩをカソード抵抗にしてみました.その結果,出来上がった回路が以下のものです.

上のEp-Ip曲線より,1Vpp程度までしか信号は入力できないことが明らかですが,わざと入力として0.4Vpp,0.8Vpp,1.2Vpp,1.6Vpp,2.0Vppの信号を入れて,出力信号を見てみます.以下のような結果になりました.

赤色の直線が,カソード抵抗と真空管の間の点の電位なので,バイアス電圧です.黄緑色の正弦波が入力信号で,青色の波形が出力です.振幅が最小の波形(入力が0.4Vpp)でも,ある程度出力波形が歪んでいることが分かります.

出力波形で最も振幅の大きいものは,上下がサチっています.また,全体的に上の波形が膨らんで,下の波形が細くしぼんでいます.これは,上のEp-Ip曲線において,下に行くに従って曲線の間隔が狭くなっているので,こうなっています.

以上のシミュレーションより,だいぶ波形が歪んでいるものの,電源電圧12Vである程度増幅できていることが分かります.

次の投稿では,定電流バイアスを使って,この特性をもう少し改善してみます.

2次高調波歪み

この出力波形の歪みの形は,以下のように作ることができます.gnuplotで$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$をプロットすると,以下のように,上が太くて最大値の絶対値が小さく,下が細くて最小値の絶対値が大きいグラフを描くことができます.太い線が$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$,細い線が$\sin(x)$と$0.2\cos(2x)$です.

これより,正弦波に対して,その周波数(基本周波数)の偶数倍(この図の場合は2倍)の周波数を持つ,振幅の小さい周波数成分(2次高調波)を加えると,シミュレーションに近い波形を作ることが可能です.このように,基本周波数の偶数倍の成分の信号が含まれる歪みを,偶数次高調波歪みと呼びます.一方,基本周波数の奇数倍の成分が含まれる歪みを奇数次高調波歪みと呼びます.

真空管アンプは2次高調波歪みが多く,一方半導体アンプは3次高調波歪みが多い,そして偶数次高調波歪みが奇数次高調波歪みに比べて聴感上よく聞こえると言われています.さらに,特に弦楽器は2次高調波歪みが多いので,真空管アンプの歪みによって,響きが強調されて心地よく聴こえると言われることもあります.

「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(3)」へ続く.

2019年3月28日木曜日

WE408A三結の低電圧特性

WE403A(6AK5)のヒーターが20Vになったバージョンである,WE408Aの三結について,低電圧特性を測ってみました.


WE 408A MT7pin




五極管 ヒーター 20V 50mA



三極管接続 Eg2=Ep







Eg

Ip(mA) 0 -0.2 -0.4 -0.6 -0.8 -1
Ep 0 0.013 0.006 0.003 0.002 0.002 0.001
1 0.017 0.008 0.004 0.002 0.002 0.001
2 0.024 0.011 0.005 0.002 0.002 0.001
3 0.034 0.016 0.007 0.003 0.002 0.001
4 0.046 0.023 0.011 0.004 0.003 0.001
5 0.061 0.031 0.015 0.006 0.003 0.001
6 0.08 0.042 0.02 0.009 0.004 0.002
7 0.102 0.056 0.028 0.013 0.006 0.002
8 0.129 0.074 0.037 0.018 0.008 0.003
9 0.161 0.093 0.049 0.024 0.011 0.004
10 0.199 0.117 0.063 0.032 0.014 0.006
11 0.238 0.143 0.08 0.042 0.02 0.008
12 0.277 0.173 0.099 0.054 0.026 0.011
13 0.29 0.207 0.122 0.068 0.034 0.015
14 0.3 0.243 0.147 0.085 0.043 0.02
15 0.31 0.282 0.176 0.103 0.054 0.027
16 0.32 0.29 0.208 0.125 0.066 0.033
17 0.33 0.29 0.244 0.149 0.081 0.042
18 0.38 0.3 0.283 0.172 0.098 0.052

まず,次のグラフがEp-Ip特性です.それぞれの折れ線のラベルがEgの値(V)です.6AK5(403A)は内部抵抗が大きいので,この程度の低電圧だと1mAも流れていませんが,そこそこ綺麗な三極管特性がこの程度の電圧でも見られます.Eg=0Vと0.2Vのとき,0.3mAぐらいでサチってしまっています.これが何かは,もう少し広い範囲で見てみないと分かりません.

次のグラフがEg-Ip特性です.それぞれの折れ線のラベルがEpの値(V)です.

これらの特性を見ると,普段プレート電圧が100V単位のスケールで見ている傾向が,10V程度でも見えます.負荷抵抗を大きくすれば,12Vや30V程度のB電圧で十分使えそうです.