「LTspice on macで真空管のシミュレーション」では,B電圧200VでEL34Tを動かしてみました.ここでは,B電圧を12Vという低い電圧で,どのような動作になるかシミュレーションしてみます.
Ep-Ip特性のプロット
まず,12V電圧でのEp-Ip特性をプロットしてみます.真空管のプレートの接続点にマウスカーソルを合わせると電流を測るマークが出て,マウスでクリックすればこの抵抗を流れる電流をプロットできます.
グリッド電圧は{VG}と書いて変数にし,
.step param VG list 0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1
で0Vから-1Vまで0.1V単位で変化させます.電源電圧は0Vから12Vまで0.1V単位で変化させます.
以下のような指定でも大丈夫です.VGを0から-1まで-0.1ずつずらす,と指定しています.
こうやってプロットしたEp-Ip特性が以下の図です.横軸がプレート電圧,縦軸がプレート電流です.一番上の曲線が,バイアス0Vのときで,バイアスがマイナス方向に大きくなるにつれて,順に下の曲線になります.一番下の曲線がバイアス-1Vのものです.
回路の設計,シミュレーション結果
電源電圧12Vでなるべく多く,この曲線を横切るようにするために,負荷抵抗を1kΩとし,横軸の12Vと縦軸の1.2mAを結んだ直線をロードラインとし,バイアスはその真ん中,0.5Vと設計します.プレート電流と同じくカソード電流が1.2mA流れているとき,バイアスを0.5V上げるには,カソード抵抗として400Ωを置けば良いことになります.
が,ここはシミュレーターなので,色々値を入れて,実際にバイアスが0.5V程度になる1kΩをカソード抵抗にしてみました.その結果,出来上がった回路が以下のものです.
上のEp-Ip曲線より,1Vpp程度までしか信号は入力できないことが明らかですが,わざと入力として0.4Vpp,0.8Vpp,1.2Vpp,1.6Vpp,2.0Vppの信号を入れて,出力信号を見てみます.以下のような結果になりました.
赤色の直線が,カソード抵抗と真空管の間の点の電位なので,バイアス電圧です.黄緑色の正弦波が入力信号で,青色の波形が出力です.振幅が最小の波形(入力が0.4Vpp)でも,ある程度出力波形が歪んでいることが分かります.
出力波形で最も振幅の大きいものは,上下がサチっています.また,全体的に上の波形が膨らんで,下の波形が細くしぼんでいます.これは,上のEp-Ip曲線において,下に行くに従って曲線の間隔が狭くなっているので,こうなっています.
以上のシミュレーションより,だいぶ波形が歪んでいるものの,電源電圧12Vである程度増幅できていることが分かります.
次の投稿では,定電流バイアスを使って,この特性をもう少し改善してみます.
2次高調波歪み
この出力波形の歪みの形は,以下のように作ることができます.gnuplotで$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$をプロットすると,以下のように,上が太くて最大値の絶対値が小さく,下が細くて最小値の絶対値が大きいグラフを描くことができます.太い線が$\sin(x) + 0.2\cos(2x)$,細い線が$\sin(x)$と$0.2\cos(2x)$です.
これより,正弦波に対して,その周波数(基本周波数)の偶数倍(この図の場合は2倍)の周波数を持つ,振幅の小さい周波数成分(2次高調波)を加えると,シミュレーションに近い波形を作ることが可能です.このように,基本周波数の偶数倍の成分の信号が含まれる歪みを,偶数次高調波歪みと呼びます.一方,基本周波数の奇数倍の成分が含まれる歪みを奇数次高調波歪みと呼びます.
真空管アンプは2次高調波歪みが多く,一方半導体アンプは3次高調波歪みが多い,そして偶数次高調波歪みが奇数次高調波歪みに比べて聴感上よく聞こえると言われています.さらに,特に弦楽器は2次高調波歪みが多いので,真空管アンプの歪みによって,響きが強調されて心地よく聴こえると言われることもあります.
「LTspice XVIIで真空管のシミュレーション(3)」へ続く.
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